『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』
ドン1話「あばたろう」
「私は生まれながらの天才だ。漫画の神様に愛されている」
女子高生でありながら期待の新人漫画家でもある鬼頭はるかがマンガ大賞を受賞するという場面から早速、流れるように炸裂する井上節(笑)
はるかはその帰り道で突如怪物に変わったタクシーの運転手に襲われ(今回だけ見てると本当に唐突で謎)、授賞式でもらった花を振り回し抵抗していたところを謎のライダーによって救われる。
「何故花を散らす?花は風に散るもの…或いは人知れず落ちるもの…」
「何、詩人?ここで詩人か?」
直近で80年代戦隊を多く見た身としては、そのイズムが濃く出てるこのシーンだけでもうお腹いっぱいです。
全身水色スーツでハーフ顔の二枚目謎ライダーは腕のブレスを操作して戦闘形態へと変身し、運転手鬼を一刀両断に伏せてから散った花の一輪をはるかの胸に差し、名乗ることもなくその場から颯爽と退却。
「いたんだ…本物のヒーローが…!」
明らかに只事ではない状況において、はるかのときめきゲージが急上昇しており、異常者が出てきたと把握する現実的な目線を持ち合わせていながら、その場で起こったことよりまず自分の感情にひた走ろうとする辺りが実に井上脚本。
大賞をクラスメイトから祝福され、その状況に水を差す生徒から守ってくれる彼氏もおり、SNSのフォロワーも増えていることで幸福の有頂天に立つはるかだったが、スマホをいじってただけなのに、突如として現れた黄色いサングラスを身につけてから、見えていた世界が一転する。
「お前…見えるのか?」
喫茶店の中年サラリーマン、広告塔の美女、デートするカップル…特定の人物がカラフル模様の異人に見え、存在を認知されたことからその異人(しっくり来ないのでもう戦闘員と呼びます)に追いかけられ、人間世界に密かに紛れ込んでおり(しかも大勢)、その存在を認識した人間に敵意を持って襲いかかる戦闘員の描写は《ウルトラ》シリーズに近いものを感じ、更に前作『ゼンカイジャー』で徹底された「見た目の異なる種族との共存」と真っ向から対立することで差別化を図っていき、物語の方向性をスタートから存分に見せつけてきています。
「助けて、マイヒーロー!」
突然服を脱ぎ戦闘態勢に入った戦闘員たちに追い込まれたはるか(ヒロイン志望)の前に、白馬の王子様…ではなくファンキーな銃・ドンブラスターが出現し、銃が勝手に作動してオニシスターに強制変身させられる!
ヒロインになるにもまず、戦わなければ生き残れない!!
意外にも戦闘センスの高めなオニ黄はこれ地形効果も積極的に活用し、戦闘員から逃れることに成功するも、知られざる秘密を知ってしまったことで自身の漫画に盗作疑惑をかけられ、クラスメイトや彼氏からも見放されてしまい、栄華に満ちていた人生は転落へと向かうことに。
「何なに…転落?いきなり…?」
公園で黄昏れるはるかは全ての始まりとなったサングラスのせいにして放り捨てようとするも、既に呪いのアイテムと化していたことでまたも強制装着され、今度は不審な男が檻に閉じ込められている謎の空間に飛ばされてしまう。
「君には4人の仲間がいるが…まずは桃井タロウを探すことだ。
ーーー彼の前で跪き、忠誠を誓え」
「彼が君を導いてくれるだろう。そうすれば、失ったものを取り戻せる」
21年前、川を流れてきた桃から出てきた赤ん坊を拾っていた男・陣から戦士認定を受けたはるかは、精神的に結構追い詰められている状態からか割ととんでもない命令をあっさり飲み込んでしまい、疑問を挟むより行動を起こそうとする変な前向きさは実に井上脚本のヒロインといった趣きを感じます。
「あの人だ…多分。私が失ったものを取り戻せるなら、街中を全ッ部探してやる!」
授賞式の夜、自分を助けてくれたバイクの王子様こそ救世主だと考え動き出したはるかだったが、その直前にぶつかった配達員の胸元の名札に、桃井タロウの名が刻まれていたことには気付くことは無く………
うーん、井上脚本!!
一方で、冒頭ではるかに敵意を向けラケットに大量の釘を打っていた元卓球部のクラスメイト・ヨッピーこと吉岡が何者かに取り憑かれたように超人的な力を発揮し、殺人卓球で次々と卓球の強豪を打ち破っていき、食堂で急に勝負を挑まれながらもお盆で受けて立つ高校チャンピオンが逞しい(笑)
「俺はもっと強くなる!もっともっとぉぉ!!」
ヨッピーの卓球に勝つという思念が破壊衝動へと変わるのと同時にその姿は怪物・シソツ鬼と変化し、引き摺られるようにして戦闘員アノーニが出現して人々に襲いかかる!
タロウ探し中だったはるかはまたも強制変身からの移動によって現場へと赴くことになり、変わり果てたクラスメイトからヤクザキックを受けたところに、再び現れる、バイクの王子様ーーー!!
「桃井タロウ様!あなたに忠誠を誓います!だから、ヨッピーを元に戻してください!!」
スライディング跪きで忠誠の重さを表現するオニ黄だがヒロイン力の不足からか邪魔者のように足蹴にされ、そしてその刃はあの日の夜と同じく、人間が変異した怪物へと振り下ろされる。
「ヨッピー!?」
「もういない、消去した」
「何で…あなたヒーローじゃないの!?」
シチュエーションは冒頭とほぼ同じでありながら、数々の難を経験したはるか(と視線を共有している視聴者)の中でその意味が大きく変わり、ヒーローだと思っていた男が理解し合えない異種族であったことを克明に描き出し、戦うべき本当の"悪"は何なのか?という問いかけを鮮やかに促していて流石。
また、行動のきっかけこそ自分のために動いていたはるかでしたが、桃井タロウ(人違い)を見つけたらまずヨッピー救出をお願いする、という行動も嫌みになり過ぎず、前作とは方向性が異なりながらも演出・脚本共にベテランのバランス感覚が光ります。
人の生命を何とも思わないバイク暴君に怒りを向けるオニ黄だがアノーニに阻まれ多勢に無勢となっていたその時、いきなり転送されてくる桃色サングラスを掛けたスーツ姿の男。
ひたすら追い詰められてるオニ黄は桃色=桃井だと超速判断し、今回2度目のスライディング跪きを敢行するもまたもや空振り。
「そんなこと言ってる場合?君もさ、戦士じゃないの!?」
桃色グラス男はツッコミこそ真っ当ながら言ってることは某ジェットマンのそれに近く、相変わらずサラッと出たセリフに狂気を含ませるのが上手です(笑)
「アバターチェンジ!!」
桃色グラス男はドンブラスターを自ら起動させ、人間のシルエットからは大きくかけ離れた超細身のピンク戦士・キジブラザーに変身!
「デカッ!てかこいつもタロウじゃないワケ!?」
目的の人物と違うと分かるやいなや「こいつ」呼ばわりを受けるキジ桃が加勢し、賑やかになってきたところを畳みかけるように、鳴り響く祭囃子…踊り子と屈強な担ぎ手を引き連れ、神輿の上に乗ったバイクに跨り参上する1人の男がいた!!
「やーやーやー!祭りだ祭りだ!!
袖振り合うも多少の縁、躓く石も縁の端くれ…
共に踊れば繋がる縁、この世は楽園!
悩みなんざ吹っ飛ばせぇ!!」
明らかにその場のテンションを測り損ねている男がまさかの桃井タロウ…?と懐疑的になるオニ黄を横目にバイクから飛び降りた赤い狂気がバイク暴君に斬りかかる!
「さぁ、楽しもうぜ!勝負勝負!!」
「楽しむだと…?この世の人間はどこまで穢れているのか…」
赤タロウとバイク暴君の切り結びはスピード感と復活の浅井レッドのキレもありなかなか楽しめたのですが、尺の都合か短く済まされてしまったのが勿体無かった点。
まあこれらは今後にお預けでしょうか。
「これ以上は我が剣の穢れ…」
ヨッピーに吹き飛ばされていた卓球チャンピオンの金メダルへの渇望を引き出し騎士竜鬼に変化させたバイク暴君は撤退し、どうやら野良鬼に取り憑かれたヨッピーとは異なり、無理やりヒトツ鬼に変えることも出来そうな雰囲気ですが、今後適当に扱われそうで少し不穏。
騎士竜鬼に切りかかられながらもプロレス技でホールドし、アノーニに苦戦する黄と桃をゼンカイギアの連射能力で支援して赤タロウがリーダーとしての器量と実力者っぷりを発揮。
「ザングラソード・快刀乱麻!!」
アバター空間を活かしたファンネル攻撃からの必殺剣で騎士竜鬼を斬り伏せたのも束の間、休む暇も与えてくれずに騎士竜鬼は鬼ング(キング)へと巨大化!
「悪縁は断ち切るに限るぜ!!」
上空に発生した電脳空間のような街で暴れる鬼ング(ビルを破壊すると実際の街にも影響あり)にバイクで単身飛びかかる赤タロウ、そしてそれを見ていた黒いゼンカイザーがジュランティラノを召喚し、そのままドン・全界合体!!
真っ赤なボディと剣を携えたドンゼンカイオーの戦闘はほぼフルCGで描かれ、前作でも特徴的であったCGロボ戦にアバター空間のような描写を取り込むことでロボ戦の違和感を減らそうとする試みが感じられ、未だ試行錯誤の段階といった具合ですが今後面白く繋がってほしいと思う部分です。
騎士竜鬼ングはドンゼンカイオーの必殺斬りによってまたも斬り伏せられ、宿主となった卓球チャンピオンは無事生還し、その力の欠片はリュウソウジャーのセンタイギアとなり黒ゼンカイザーの手に収まることに。
「あなたたちが、私の仲間?」
「あー、その件はまた改めて」
そして戦いが終わって間もなく赤タロウとキジ桃は時間切れとばかりに消失してしまい、オニ黄も足下に落ちていたヨッピーの釘打ちラケットを拾うこともできず、強制ログアウト。
結局桃井タロウを見つけることは叶わず、はるかは溜息を着く一方だった。
「一体どこにいるの?桃井タロウ…」
情報量多いな!!!
本日スタートの新戦隊、詰め込まれた要素の整理もしたいことから書き始めましたが、スルー出来ない事項が多すぎてまとめに困ります(笑)
書いていて分かったことなのですが、初回でありながらキャラクターが自ら名乗るシーンが一切見つからず、"桃井タロウ"を探すストーリーとして見ても若干のもどかしさを感じました。
真っ先に抱いた印象として、謎を完全なる謎として引っ張り、事情がすぐには飲み込めないながらもちょっとしたキャラ描写に善性(悪性)を感じさせるよう配慮が行き届いており、情報量の割にエピソードとして完成させられているのが凄い第1話。
メインライターとしては『ジェットマン』以来31年ぶりとなる井上敏樹氏の脚本ということで直近ではあまり評判の良くなかった印象ですが、1エピソードに求められる情報を漏れなく振り分け、キャラの動向に無理が生じない(それでいて高感度稼ぎも怠らない)筆力はやはりその道を駆け抜けてきたベテランの仕事に相応しく、更にパイロット職人として《平成ライダー》シリーズを長年支えてきた田崎竜太監督の見せ方も相まって、「全く説明が無い第1話」としての完成度の高さは、それこそ初期《平成ライダー》を思い出させる作りに似ています。
その代償として流れるように細かい要素が差し込まれるので、食い入るように見てないとかなり分かりづらく、思ったことや表現したいことを言語化することが要請されがちな現代においてこの作劇がどれくらい通用するかも見どころであり、白倉Pを始めとするスタッフからの時代に対する挑戦状といった側面も垣間見えてきます。
ストーリーとしては戦隊陣営・バイク暴君陣営・ヒトツ鬼と三巴の様相を呈していますが、アノーニ戦闘員がヒトツ鬼に引き寄せられたように見えたかと思いきや途中からバイク暴君に従うような素振りを見せたり、暴君自らヒトツ鬼を生み出したりと相互の関係が気になるところ。
また、赤タロウが縁を結ぶことを重視しているのに対し、アバターとなった仮想の自分にお供がいるという状況が非常に不穏であり、誕生から既に謎に満ちていますが、桃井タロウは個性豊かなお供たちと絆を育むことができるのか。
そして口数が減り、黒い服を身に纏う五色田介人の目的は一体何なのか。
次回を楽しみにしたいと思います。
あとバイクの押出し方が色々と良かったので、今後もバイク押しを続けてくれたら嬉しいですね!