『ウルトラマントリガー
-NEW GENERATION TIGA-』
TVシリーズまとめ感想
ウルトラマン誕生55周年記念、そしていわゆる《平成ウルトラマン》の第1号であり未だ根強い人気を誇る『ウルトラマンティガ』25周年記念プロジェクトの一環として制作された2021年のTVシリーズ『ウルトラマントリガー』。
近年はあらゆるメディアにおいて著しい活躍を見せる円谷プロダクションが送り出した渾身の一作となりましたが、マーケティングな部分はともかく、作劇としてはとんでもないものが生まれてしまった感。
まずは慌ただしい展開による全体的な積み重ね不足。
2022年現在、売上において子ども向け特撮作品としては群を抜いて好調なウルトラマン関連ということもあって、玩具の販促スケジュールの都合がこれまで以上に物語に侵食しているように見えました。
そのため玩具販促のためのイベント(時にはメインストリームに絡まない)が多く挿入されることになり、登場人物の突飛な行動や言動、理解が追いつかない急展開が怒涛の勢いで流し込まれることに。
そのためストーリー内でキャラクターの掘り下げがあまり進むことはなく、登場人物のキャラクター性を物語の中で表現することよりも「この人物はこういう性格ですよ!」という制作側の押し付け感が強くなってしまい、その点は自分の好みから大きく外れてしまいました。
キャラ描写の不満でいうと全体的にユナの表現は辛いものが多く、出自からして『トリガー』世界でどういう風に受け入れられているのか不明なユザレの末裔という設定、二言目には「お父様が言っていた」と受け売りを語る主体性の無さ(序盤は顕著)、女子高生やりながら危険を犯してでも防衛隊に参加する理由が特に掘り下げられないなど、共感できる心情が皆無に等しく、後半はそんなユナの葛藤が描かれても何に驚けばいいのか分からないまま押し付けの強い用意された驚きに劇的さを感じられず、ひたすら困惑させ続けられました。
詰め詰めだったパイロット3話が終わってからケンゴとアキトを中心に掘り下げていくという構成は、その内容自体は結構楽しめたのですが、後半に向けてケンゴとアキトを描いていく中でそれを見つめるユナの掘り下げが放置されてしまっており、外堀をしっかり埋められなかったという点からはシリーズ構成の設計ミスを修正しきれなかった甘さが窺えます。
特にユナの人間関係においてはお父様と「アキトが一方的な想いを寄せてる」という点以外は他者と何ら接点が無く、第12話の感想でも触れましたがケンゴに抱きつくならアキトの方が適任に感じてしまうという発想になってしまう流れはいかがなものか。
逆に最終回ではケンゴに最後声を掛けるのがヒロインに返り咲いたアキトになってしまっており、やってることがちぐはくです。
作り手側が見せたい展開に対して登場人物の動向を積み重ね、後に発生する仕掛けに対する人物の葛藤に説得力を持たせた上でそれを乗り越えることこそ"劇的"と呼べるのだと思うのですが、本作はそういった視点がひたすら欠けていたのは最後まで相性の悪い部分でした。
キャラクターの不満にもっと触れると、GUTS-SELECTの面々はメインストリームじゃないにしても何ら魅力を感じられない酷さ。
筋肉アピールをするベテラン操舵士、普段はクールだがハンドルを握ると性格が豹変するドローン戦闘機のパイロット、あらゆる情報に長け作戦立案や武装開発に貢献するメトロン星人の子ども等々…文字情報にすればえらく個性的な集まりとなってはいるのですが、逆に言えば物語の中でそれ以上にキャラ造形を広げる伸び代が無く、取捨選択の結果見事にそれを活かせなかったということになってしまいました。
各話感想でもちょくちょく触れ、ユナにおいてもそうでしたが、本作はキャラクター同士の横の繋がりが極めて薄く、人物の何気ない会話でキャラクターを立てられないことがキャラ描写において致命的でした。
誰かが声を発しても、聞いてるんだか聞いてないんだかよく分からないリアクションを取る場面や、掘り下げの進んでいないキャラクターへの理解の無さから当たり障りの無い言葉が発せられ結局は頭が悪い会話に見えてしまうなどの負の部分が悪目立ちしており、その究極が第10話のマルゥル無視と第16話の「確かにトリガーダーク、って感じだなぁ」。
まあ雑誌のスタッフインタビューなどによるとGUTS-SELECTの存在自体が企画段階でギリギリに登場したため、物語に組み込むのが難しかったという裏事情があるみたいでそこには同情の念は多少感じられますが(販促的な部分で言えばその選択は成功だったわけですし)。
そして防衛隊であるGUTS-SELECTがストーリーのメインにならなかったことから、彼らが立ち向かうべき怪獣も物語の主眼から外されてしまうことに。
6年前に出現したデスドラゴを始めとしてコンスタントに怪獣が出現しているという世界観は悪くなかった(マルゥルが情報提供しているというのも本作にしては納得度の高い部分)のですが、たった一機のガッツファルコンが活躍してる印象の方が少なかったり、監督によっては画面から完全に抹消させてしまっていたりとGUTS-SELECTが物語の中で魅力的な描かれ方をなされておらず、必然的に敵対する怪獣側もまともに掘り下げられないで時間が来たら爆散させられるという役割ばかり与えられていました。
前作『Z』が防衛隊と怪獣の戦いを中心にしつつ、キャラクターにも魅力を与えるような作劇を施していたので、そういった部分でも足りない箇所が少し目立つことになってしまったのは本作の不運なところではあると思いますが、もうちょっと闇の巨人たちとの比重を考えてほしかったです。
強いて言えばGUTS-SELECTの活躍が見られる強敵サタンデロスと、カルミラの使役する生物兵器らしさが出ていたガーゴルゴンは良かったと思います。
闇の巨人といえば、振り返ってみるとカルミラ-ケンゴ、ダーゴン-アキト、ヒュドラム-イグニスの対立構造と併せて3人それぞれに狙われるユナという構図になっていたわけですが、最終回からの逆算で"光と闇"の対比を描ききれなかったのも残念だった部分。
ケンゴが最終的に「光」であり「人」であり「闇」であるという結論に達するのならそれぞれの立場を引き立てておくことは必至だと思われるのですが、「元からそういう立ち位置だったから僕は光」「人間の母親に育てられたから僕は人間」「光になる前はダークだったから僕は闇」とえらく受動的なケンゴの態度が個々の要素の説得力を引き下げてしまっており、押し寄せるイベントの波が面白くなりそうな対比構造の完成度を上げきれなくてつくづく残念。
おまけに最終回にて、「闇」は元々トリガーのものだったから受け渡し可能であるというモバイル性を発揮してしまい、特にカルミラたちとの歩み寄りにおいて最も注意すべき「闇」の部分をイグニスに頼ってしまったことも重なりカルミラの最期に一切説得力が生じないどころか、ケンゴが自己満足のうちに「ロボタック海に死す」を選んでしまうという事故に直結。
最終回感想でも少し触れたことですがユナの自己犠牲を否定しながら、エタニティコアの暴走を鎮めるために自らを犠牲にするケンゴには矛盾どころか自分勝手さすら感じてしまい、「運命を受け入れる」のか「運命を否定する」のか結論は出せないまま、『エピソードZ』に丸投げしてしまおうとする最終回には終始首を捻ってしまいました。
キャラクターの件の他に本作の問題点として、外的要因がトリガーを引いてしまうことが多いこと。
異世界から現れたゼットさんと共に戦ったパワードダダとのいざこざで自分の中のユザレを自覚するユナ(第8話)、これまた異次元から現れたアブ戦士に対抗するためにリブット先輩からあれやこれや色々教えられ過ぎてしまうケンゴたち(第15話)、唐突に現れたキリエル人が闇巨人トリオの溝を決定的にしてしまう(第19話)、ダーゴンにトドメを刺すのがリブットキー(第23話)などなど、枚挙に暇がありません。
もちろん現在の流れを考えると、他作品との競演は見どころに溢れていてやらない手が無いくらいのものではあると理解できるのですが、ただでさえ令和版『ティガ』を目指している故にそれをなぞるような部分が多い本作において、アイデンティティーの喪失が顕著になってしまったのは問題。
最終回の唐突な『ティガ』オマージュも相まって、『トリガー』としてどのような物語を作りたかったというより、過程を遠ざけた上でどこまで『ティガ』に寄せることは可能か?みたいなチャレンジングになってしまっている印象でした。
スタッフの仕掛ける特撮のレベルも上がっており、映像的には技術の進化を現状感じ取れる本作ですが、果たして数年後に見直した際に"『トリガー』としての魅力とは何なのか?"という命題がもしも生まれてしまった場合に、一体どのような回答を用意しているのかが、これまでにない好調をキープしてる現状だからこそ非常に気になってしまいます。
・エピソードごとの評価、見どころ
全25話ということで、前作同様に各エピソードの概要とともに評価を振り返ってみたいと思います。
あくまで個人的な感想を踏まえた印象評価となりますので、その点はご了承ください。
(評価)
◎…すごく良い
○…良い
- …普通
△ …微妙
× …ダメ
第1話「光を繋ぐもの」×
(監督:坂本浩一 脚本:ハヤシナオキ)
・基礎無しの建屋
・詰め込み過ぎ
・バラバラ爆発
第2話「未来への飛翔」×
(監督:坂本浩一 脚本:ハヤシナオキ)
・筋肉対決
・ジャーク会長の片鱗
・「お前じゃない!」
第3話「超古代の光と影」-
(監督:坂本浩一 脚本:ハヤシナオキ)
・イグニスとヒュドラムの因縁
・ハッピートリガーアキト
・空中戦は良い
第4話「笑顔のために」△
(監督:武居正能 脚本:根元歳三)
・顔パス
・意外と強いオカグビラ
・「そうか!」
第5話「アキトの約束」-
(監督:武居正能 脚本:根元歳三)
・ジャーク会長本領発揮
・ケンゴの無言の演技が良い
・性癖に目覚めるダーゴン
第6話「1時間の悪魔」○
(監督:武居正能 脚本:根元歳三)
・開幕ピコンピコン
・キャップを被り直すケンゴ
・スカイタイプのマルチソード
・迫力の大爆発
・「おや?1人食べ残してしまったようですね…」
第7話「インターユニバース」○
(監督:田口清隆 脚本:小柳啓伍)
・『ウルトラマンZ』の番組ジャック
・「ナイスチューミーチュー」
・変身大喜利再び
・ベリアロクパパ
・ラーメンの絆
第8話「繁殖する侵略」-
(監督:田口清隆 脚本:小柳啓伍)
・まさかのパワードダダ
・敵に回る特空機
・自動車アタック
・タイプチェンジラッシュ
・ラーメンの使徒、誕生
第9話「あの日の翼」◎
(監督:辻本貴則 脚本:林壮太郎)
・デバン・ダ・カルミラ(1セリフのみ)
・『ティガ』世界とのリンクと断絶
・生物兵器ガーゴルゴン
・邪悪遺伝子の脅威
・ブチ切れ会長のガッツウイング
・勇者パース
第10話「揺れるココロ」×
(監督:辻本貴則 脚本:林壮太郎)
・ストーキングダーゴン
・「アイアンクローじゃあ、乙女心は掴めないぞー」
・雑なストーリー運び
第11話「光と影の邂逅」-
(監督:武居正能 脚本:ハヤシナオキ)
・トリガーダーク見参
・いきなり過去に飛ぶ主人公
・殴り合うケンゴとトリダー
第12話「三千万年の奇跡」×
(監督:武居正能 脚本:ハヤシナオキ)
・超悪魔展開
・3体並ぶトリガーはカッコいい
・ユザレ、エタニティ暴発
・グリッタートリガーエタニティ変身
第13話「狙われた隊長〜マルゥル探偵の事件簿〜」△
(監督:内田直之 脚本:足木淳一郎)
・総集編
・人の話を聞かないマルゥル
第14話「黄金の脅威」-
(監督:坂本浩一 脚本:足木淳一郎)
・アブ戦士、リブット参戦
・トリガー、エタニティ暴発
・新ED、クセが強い
第15話「オペレーションドラゴン」×
(監督:坂本浩一 脚本:足木淳一郎)
・リブートキャンプ
・バトルナース登場
・残念沼に浸かるカルミラさん
・トリガーを引いてしまう『ギャラファイ』
第16話「嗤う滅亡」×
(監督:越知靖 脚本:植竹須美男)
・イグニス変身、トリダーフェイスオープン
・「確かにトリガーダーク、って感じだよなぁ」
・イグニスとヒュドラムの因縁再び
第17話「怒る饗宴」××
(監督:越知靖 脚本:植竹須美男)
・カルミラさん、大先輩に覚醒
・唐突なミリタリー要素
・謎のメンテナンスブース
・引っ張った割にあっさり倒されるメツオロチ
・サークルトリダーはカッコ良かった
第18話「スマイル作戦第1号」-
(監督:田口清隆 脚本:根元歳三)
・息抜き回、と思いきや…
・GUTS-SELECTの愛嬌付け
・「前にもらったスタンガン、役に立ったし」
第19話「救世主の資格」×
(監督:田口清隆 脚本:根元歳三)
・キリエロイド参戦
・釣られてティガも参戦
・解散ドッキリがガチになる闇巨人トリオ
・サンドバッグリッタートリガー
・またもトリガーを引く外様
第20話「青いアイツは電撃と共に」×
(監督:辻本貴則 脚本:継田淳)
・関西弁怪獣バリガイラー
・めちゃくちゃなシナリオ
・ユザレの軽い扱い
第21話「悪魔がふたたび」-
(監督:辻本貴則 脚本:継田淳)
・アボラスとバニラ復活
・並び立つ2人のトリガー
・棒立ちの隊員4名
第22話「ラストゲーム」×××××
(監督:辻本貴則 脚本:足木淳一郎)
・触れたくもない
・親の仇
・意味不明なロボット怪獣
・チーズ牛丼
・『ブルースワット』を超えた
第23話「マイフレンド」△
(監督:坂本浩一 脚本:ハヤシナオキ)
・ダーゴン退場
・雑な状況設定
・「あんなに手こずったユザレを、こうも容易く捕獲できるとは…」
第24話「闇の支配者」○
(監督:坂本浩一 脚本:ハヤシナオキ)
・気持ち悪いメガロ大先輩
・「ユザレと同じ結末を迎える必要なんてない!!」
・恐るべし、邪悪遺伝子の思し召し
第25話「笑顔を信じるものたちへ〜PULL THE TRIGGER〜」×××
(監督:坂本浩一 脚本:ハヤシナオキ)
・やってしまった『ティガ』オマージュ
・光と闇の掘り下げ不足
・「ロボタック海に死す」
『Z』と比べて全体的にアベレージは低めで、後半に至っては○以上が付いたのが第24話だけになってしまった!(笑)
演出回数の内訳は、坂本監督/8本・武居監督/5本・辻本監督/5本・田口監督/4本・越監督/2本・内田監督/1本の計25本。
メインの坂本監督がパイロットと最終回、最多演出を順当に担当するのはいつもの《ニュージェネ》シリーズもいったところですが、サブパイロットの武居監督がメインより先に2度目のローテに入ったり、劇場版に相当する『エピソードZ』を担当するなど、『ギャラクシーファイト』の影響もあってかスケジュールに色々変更が見られます。
また、田口監督がメイン以外の作品で2度参加するのは『ギンガS』以来7年ぶりとなっており、前作以上に各監督の担当回が満遍なく増えたのも興味深く、残念ながら本作の完成度は低くなってしまいましたが、今後に繋がるローテ体制を作ろうと制作側も試行錯誤といったところでしょうか。
安定していたのは武居監督と田口監督で、キャラ描写に難のある本作において、ちょっとした挙動で人物の愛嬌やヒーロー性を引き出せていたのは好材料でした。
各話感想では厳しい意見を向けた辻本監督も、本作で唯一◎評価の第9話を担当しており、出来るだけ真面目に作ってもらえる方がこちらとしても良いなぁと思った次第です(笑)
まあでも、22話は許せない…ってあれ、よく思い出せない(棒読み)。
脚本の内訳は、ハヤシナオキ/8本・根元歳三/5本・足木淳一郎/4本・小柳啓伍・林壮太郎・植竹須美男・継田淳/各2本ずつで計25本。
こちらも前作と比べひとり一人の比重が多くなった印象となり、やはり縦軸を意識したシリーズ構成であったことが窺えます。
だったら何故あのような構成になったのか…という点は置いておいて、メインライターどころか《ウルトラ》シリーズ初参加となったハヤシナオキ氏と足木淳一郎氏が連名でシリーズ構成を担当し、『Z』や『ギャラクシーファイト』との競演なども実現することに。
良し悪しはともかく、今回の挑戦から何かしら結果を得られたとは思うので、期待半分・不安半分で今後脚本家事情も見つめていきたいと思います。
と、あまり不満点ばかり述べても息苦しいので良かった点を挙げると、トリガー自体のデザインはストレートにカッコ良くてアクションは毎週楽しみに見ていました。
特にパワータイプが好みだったのですが、前半戦で活躍が多かったスカイタイプも印象的で、掴みでのトリガーのヒーロー性を最大限に引き出せたのは坂本監督の手腕が光った点だと思います。
反面、グリッタートリガーは例年と比べて見てもなかなかの扱いの悪さでしたが、その分基本3タイプとサークルアームズの扱いが良かったので、総合的に見ればそこはプラス評価だなと。
他にもキャラクターでいうと色々と都合良く使われがちですが、終盤で"運命の否定"を持ち出し主人公属性を引き上げたアキトと、たまに崩されたりする(特に田口監督)が基本真面目で発言もまともやタツミ隊長が全話通して好きだったキャラクター。
ケンゴも序盤のセリフで説明せずとも行動でその人間性を引き出すシーンがいくつか差し込まれた辺りは寺坂さんの演技も良く好きだったのですが、後半に入って悟りを開いてからはその人間性が減じてしまい、やや取っ付きづらいキャラクターになってしまったのは惜しかった点です。
またシリーズの特色でありながら最近はすっかり形を潜めていた"防衛隊"も前作に続けて復活させた判断は尊重したい部分。
今回の成功と失敗を活かして次作ではもっと良いものが見られることを期待しようと思います。
諸々と不満の溢れる本作ではありましたが、一応楽しんで見ていたことは分かってほしいなぁとは思います。
色々遅くなってしまいましたが、ひとまず『エピソードZ』の前に軽くまとめることが出来て良かったです。
以上、『ウルトラマントリガー』簡易総括でした。