『ウルトラマンデッカー』
第2話「決意のカナタ」
(監督:武居正能 脚本:根元歳三)
謎の生命体スフィアが地球を襲撃してバリアを張り巡らせてから一年が経過し、地球が落ち着きを取り戻しつつある中で、カナタ・キリノ・リュウモンはTPU訓練校の同志として共に汗を流していた。
射撃訓練や柔道の稽古の様子が、ナレーション付きのダイジェストとして流されるのですが、元々訓練生であったキリノとリュウモンの方がカナタより腕が立つと描写されており、説明無しにキャラクターのスキルを表現できており、そのカナタの行動原理も、火星に向かい一年間連絡の途絶えた両親に紐付けられているのも手堅い場面。
「あの時、不思議な声が聞こえて……いよいよヒーローとして、世に出る時が来たんです」
日曜朝からノイズが入ってしまいました。
内なる声に導かれてデッカーの力を宿したDカード(「デッカード」と書こうとしましたが某勇者刑事と被るので自重)を手にしたカナタだが、初めて光になったあの日以来、光のナックルことディーフラッシャーは現れず、誰もいない体育館で、カナタは夜な夜な闇の稽古を繰り返していた。
「本当に、何で俺なんだよ…」
きっと筋力が足りないだけだ!と筋トレに勤しむカナタであったが、そこに飛び込んでくるGUTS-SELECT入隊候補の話題。
「俺たちって、GUTS-SELECTに入れんのか?」
は?
いや、確かに行動原理としては、家族を含め大事な人を守りたいという想いから訓練生になったカナタですが、いくらなんでも能天気すぎるというか、訓練校をトレーニング施設としてしか考えてなかった感。
後の展開を見るに、キリノ・リュウモンに対して目標を定めてないという前フリではあるのですが、キリノの言う通り一年間訓練に励んだ男の発言とは思えず、昭和の男っぷりが物語にまで伝染してしまいました。
話題はGUTS-SELECTに入隊する訓練生が決まったという流れに変わり、訓練生某が盗み聞きしたという信憑性低めの情報でありながら、そこに自分の名前が無かったことでますます気を沈めるキリノ、そして拳を握るリュウモンさん。
……前掲の成績表ではトップに君臨していたリュウモンさんが候補に入ってないのは不自然なのですが、性格に問題があると判断されたのでしょうか。
それともあれか、リーダー的立ち位置にありながら、ホスピタリティが足りてないのか。
そんな折、主役トリオは3人一班体制で訓練校最後の行軍訓練に臨むこととなったが、
「足、引っ張んなよ」
とリュウモン班長の無愛想な一言が炸裂し、班内のホスピタリティ警報がガンガン鳴り響いている中での険しい山道にて、謎の地震に遭ったカナタは左脚を負傷してしまう。
同じ頃、ムラホシ校長の旧知の仲である怪獣学の権威・カイザキサワ(前回から登場してましたがスキップしてました)がナースデッセイの調整を行なっていた。
「本当に、また来ると思いますか?スフィアが…」
ネオマキシマエンジン(過去作繋がりの固有名詞をさらっと出していくスタイル)の調整が遅れている中、一年間鳴りを潜めていたスフィアの再登場に懐疑的になるカイザキに、その可能性を否定できないと校長は「いいから手を動かせ一年間何してたんだ」とキツいお叱りを与えていた(嘘)。
「あのウルトラマンも、現れるでしょうか?」
「さあ……彼とも仲良くなれるといいんですけどね」
「分かってる、無理はしないって……でももう少し、どこまでできるか試してみたいんだ」
カナタの負傷により、行軍訓練を完了できないと判断したリュウモン班長は本部にリタイアの無線を飛ばそうとし、それに反発し歩を進めようとするカナタであったがリュウモンに肩を掴まれーーー
「分かっていない、失敗は許されない」
「…どうして?」
「絶対にGUTS-SELECTに入りたいからだ! それに相応しい人間だと証明しなければならない! 俺はそのためにここにいる!!
……お前は何故ここにいる?」
「俺だって…!」
「お前のような考え方で、戦えると思っているのか!? GUTS-SELECTの一員として、やっていける自信があるというのか!!」
「今やれることを限界までやりもしないで、失敗だからって途中で辞めて! お前こそ本当に戦えんのかよ!?」
リュウモンさん基準では成績下位の落ちこぼれ2人のフォローによるストレスが頂点に達し、殴り合い寸前の空気になるカナタリュウモン。
第1話から見せていた意見の違いからも計算された場面での衝突だと思われるのですが、今回のリュウモン班長の発言だけでは「何故そこまでしてGUTS-SELECTに入隊したいのか?」という目的が不明瞭("証明"という言葉を使っているため、誰かを見返したいみたいな野望はありそうですが)であるだけでなく、対峙しているのがついさっきまで入隊できることを知りもしなかったカナタなのでどうにもその対峙が弱く、またそれが共に訓練を続けてきた"一年間"という蓄積の下に生まれたものでもないので、話の流れと衝突は自然なものの、その内容の突き詰め方にバグが発生しているように感じます。
「リュウモン君の言ってることは正しいと思う。でも、カナタの気持ちも分かる。……リュウモン君、もう少し3人で頑張ってみない?」
一触即発のカナタとリュウモンを見かねたキリノが割って入り、訓練中もリュウモンのペースに付いてこられなかったカナタのフォローを入れるなど、高まってきたのはヒロインではなく、お母さん属性。
「私、ずっと宇宙開発の仕事がしたいと思ってた。 けど、スフィアのせいで出来なくなっちゃって……。
今は、宇宙に行って先輩たちや大勢の人を助けたい! また皆が普通に夢を追いかけられるような世界に戻したい!
本当に出来るかどうかなんて分からない……けど、自信があるからいるんじゃないよ?
やらなきゃいけないって思うから、やらずにはいられないからやるんだよ!」
スフィアによってバリアが張られ、物理的にも精神的にも閉鎖された状況の地球において"目的"の先に"夢"があるとキリノが明確にし、現時点でGUTS-SELECT入隊がゴールのリュウモン、目的すら存在しないカナタと比較することで、トリオの中ではメンタル面でキリノが一歩前に出てるとアピール。
代償としてカナタの能天気っぷりが少々加速してしまいましたが、主人公とクールキャラの間(における衝突と和解)のワンクッションとなる面を見出し、しっかりと存在意義を示せたのは前作の反省が活かせて良かったです。
まあまあな長台詞と、役者さんの拙い演技で長引いているようにも見えましたが、まあ愛嬌ということで。
キリノの説得にリュウモンさんから手を離すカナタだったが、すかさず先程の地震の原因であった怪獣が訓練場近くの山間部に出現!
1年ぶり(地球怪獣限定だと8年ぶり?)に出現した怪獣・破壊暴竜デスドラゴは何かを威嚇するように住宅地を進撃し、前作との繋がりでカイザキが怪獣の行動を分析しているのは本作の手堅い部分。
つくづく前作は、原典とほぼ関係ないうえに事前の描写が不足していたメトロン星人の子ども(着ぐるみ)にこういった場面を任せていたというのが、本当に歪だったなと。
「私がファルコンで出ます。……大丈夫、腕は鈍ってませんよ」
新GUTS-SELECTの制服(オレンジとグレー基調で前作とほぼ別物)に袖を通した校長改めムラホシ新隊長は、まずは自分がお手本を見せようとホスピタリティを発揮し、有人操縦に切り替わったガッツファルコンで出撃!
ムラホシファルコンは華麗なる飛行で対デスドラゴ戦のノルマ「片方の角を落とす」(角が折れると大人しくなるという新設定付き)を達成するがそれでもデスドラゴは沈静化せず、退避命令を出していたにも関わらず地上で避難誘導に当たっていたカナタたちを庇って撃墜されてしまう。
本作初の有人飛行をブランクがありながらもタスクをこなし、地上のカナタたちを庇っての墜落とすることで隊長の株を下げることなく、ファルコンを自然に退場させるのは見事でした。
パイロットがいることでファルコンの飛行にもしっかりとドラマが乗り、『トリガー』にて復活したシリーズの特色である"防衛チームの戦闘機"ですが、リモート操縦という新たな試みを挑んだ結果、作劇に諸々の不具合が発生してほとんど良いところ無しで終わったファルコンに割り切ってコクピットを設け、従来と同じ操縦形式に戻したことであっさりと作劇が安定してしまったのは喜ぶべきなのかどうか。
ファルコンの撃墜を目の当たりにしたカナタは自らの手を見つめ、キリノの言葉を思い出し走り出す。
「やるしかねぇ……今、やるしかねぇんだぁぁぁ!!!」
負傷した左脚を引きずりながらもカナタはデスドラゴの下に辿り着き、光を掴むためにその手を伸ばす!
「もう一度、力を貸してくれ!!」
「ちゃんとギリギリまで頑張って、俺たちの気持ちがグッと出来上がってからじゃないと……ウルトラマンにはなれないんでございますよ」
眠りこけていたディーフラッシャーが1年ぶりにカナタの前に現れ、ディメンションしたカナタは再びデッカーに変身するも、ウルトラマンになっても治らなかった左脚の影響で先制のタックルをもろに食らってしまう。
苦戦スピードがトリガー先輩を上回っていたデッカーはいきなりピンチを迎えるが、そこに赤き戦闘機・ガッツホークが闖入しデスドラゴの残ったもう一つの角を破壊。
それを機に態勢を立て直そうとするが、ケガの影響で結局地面をゴロゴロする羽目に陥る。
「このままでは、やばみを感じます」
1年ぶりの起床で寝ぼけていたデッカー(中の人)はやっと目を覚まし、ピンチを知り慌ててホルダーに仕込んでいた怪獣カード3枚をカナタの前に晒す。
(アスミカナタ…だっけ?怪獣カードを使いなさい)
「怪獣カード?」
(デスドラゴに有効なのは、パワー自慢のミクラスだ。ミクラスを使うのでございます)
「ミクラスを、使え?」
(そう、ミクラス。一番左のやつ…ってそれじゃない、俺から見て一番左、お前から見て右の茶色いやつでございますよ)
「……分かった!」
中の人からの内なる声に導かれたカナタはしっかりとミクラスカードをディメンションして召喚………ここで間違えてアギラを召喚しないかと、ヒヤヒヤしてたことを白状いたします!
デッカーと肩を並べ、デスドラゴに掴みかかったデッカーの背中をミクラスは文字通り後押しし、今度こそ態勢を整えたデッカーは必殺光線でデスドラゴを爆殺し、辛くも勝利を収める。
ミクラスの行動が、カナタの背中を押したキリノの言葉と掛けられている意図は理解できるのですが、ミクラスとキリノは同格扱いで本当に良かったのか(笑)
「ウルトラマンになっても、ケガは治んねぇか…」
地上に戻りリュウモンさんとまた睨み合うカナタであったが……少ししてその場に駆けつけたムラホシ隊長が目撃したのは、退避命令を無視し、避難民を介助・手当するリュウモン以下3人の訓練生の姿であった。
「総員退避と言ったはずです。カナタ君、君には一年前、"命を大切に"とお願いしましたよね?」
「はい、でも自分たちの今やるべきことはこれだって、3人で決めました!」
眼鏡を外し、重々しく語り掛ける隊長であったが、リュウモン・キリノ・カナタ、3人の若者の決意に満ちた顔を目の当たりにし、再び眼鏡を掛けて厳しく、そして優しく声を掛ける。
「処分は追って知らせます。これからは指示に従い、無茶な行動はしないように。……GUTS-SELECTの一員として」
数日後、ネオマキシマを搭載し終えたナースデッセイの指令室に隊服を纏ったムラホシ・カイザキ・リュウモン・キリノ・カナタの5人、そして無人戦闘機ガッツホークを操縦していた人工知能・HANE2(エイチエーエヌイーツー)が集う。
「この6人が、新生GUTS-SELECTです」
「俺たちが…GUTS-SELECT!」
「一緒に頑張りましょう。大切なものを、守るために」
「「「ラジャ!!!」」」
若き3人が声を揃えたところで、つづく。
過去作において「勇敢な行動を見せた一般人がこれまでの経歴関係無しに、即座に防衛隊に入隊する」という、現代の視点で見ればツッコミどころが際立つ設定に説得力を与えるために、第2話にしてスフィア初登場から1年経過した世界を舞台に展開した割と斬新なエピソード。
常識的な視点で見れば納得度は高い展開ながら、一年間スフィアはおろか怪獣すら出現しない・ナースデッセイの調整に時間がかかり過ぎている・訓練校のカナタが目的を把握していない・カナタとリュウモンの衝突に一年間の蓄積が伴ってるように見えないなど、経過した時間に対してもろもろのリアクションが1週間程度のリアリティしか感じられなかったのは残念な部分。
ナースデッセイの調整遅れに関してはある意味リアルな描写とも言えますが、他世界のウルトラマンの力を解析してその変身アイテムを作ったり、アブ戦士の超エネルギーを利用してバトルモード発動させてる世界線の延長上にあるので、リアリティラインの揺らぎがあまりにも大きく、飲み込み辛さを感じます。
一方、サブタイトルからカナタの心情を掘り下げるようで、結果としてはキリノがその決意を表明するのは面白いひっくり返しで、前作でユザレという台風の目にいながら、雨風のせいで避けられ中心地に常に放置されてたユナの反省が活きていて良かった点。
カナタの知能が少し下がったものの、リュウモンさんのGUTS-SELECT入隊の先にある目的(野望)も気になるので、描かれるかは分からないながら楽しみにしたい部分です。
しかしあまりにも早い決意表明だったので、今後キリノにちゃんとした出番が用意されてるのかは心配になってきます(笑)
デバン・ダ・イチカ!!
一年間のインターバルに関しては短所が目立ちましたが、作品の納得度を引き上げようと挑戦する姿勢は評価でき、また前作で失敗に終わった若者トリオの再構築にも前向きな姿勢が感じられたため、これらの試みが良い方向に作用してくれればと、今後も楽しみにしたいと思います。
次回、燃えろ!俺の筋肉!!
※トップ画は先日参加したデッカー撮影会の様子。ウルサマ楽しみ。